ブルースカイライン☆



 風が冷たい。

 2人で別々の上着とマフラーを身につけて、自転車はコンクリートの地面を転がるように駆け抜ける。
 マフラーを口の近くまで押し上げて、レオくんの両肩にわたしの左右の手をおいている。

 走り出したころは、大きな声を出し合って、なんとか会話をしようとしていた。
 でも、風が邪魔をして、それぞれの声はすれ違いばかり。
 たぶん、それで。
 
 だんだん会話は途切れがちになって、人間の声はどこからもしなくなった。
 聞こえるのは、すぐ近くをはしゃいで吹き抜ける風たちと、自転車の車輪が体を震わせて回る音。
 そして、遠くで不確定に入り込む、波が打ち寄せる音。

 ほのかな潮風のにおいがする。

 海と冬というのは、なかなか結びつかないものだけど、とっても素敵。
 これは一度体験してみないとわからないと思う。
 わたしはこれを機に、冬の海が大のお気に入りになった。
 レオくんもそう思っていたらいいな。
 こんなことを言ったら、「うん」と頷いてくれるだろうか。

 「ねえ・・・」

 「なにい?」

 「ううん。やっぱりなんでもない」

 言おうとしてやめた。
 わざわざ大声で言うことでもない気がしてきたし、何より、この空気をもっと体感したかった。
 静かだけど、そういうのって、なんだか心地いい。

 風、海、マフラー、自転車、白いガードレール。

 サーッと、通りぬける。

 「ふふっ」

 小さな声で笑った。
 レオくんには聞こえていないと思う。

 意識していなかったけれど、得意になっていたのかもしれない。
 レオくんと2人きりで、こんなに素敵なものたちを独り占めできるなんて。


 「さなえちゃん、そろそろ着くっぽい」

 風に乗ってレオくんの声が流れてきた。

 「へっ?!ああ、ほんと」

 わたしも負けじと声を張り上げる。

 風は自転車の進行方向とは逆に吹くから、わたしの方が大きな声を出さなきゃダメなのだろうか。


 そんなことを思いながらも、自転車は徐々に速度を緩めた。
 レオくんが足で自転車を支えて、わたしが先に降りる。
 振り返ると、レオくんはサドルをまたいで、地面に着地しているところだった。

 青い自転車を道の端に止める。
 海と同じ色。

 今まで道沿いにあったガードレールが、ここから腰くらいの高さまであるコンクリートで固められていた。
 ところどころに小石が埋め込まれている。

 顔を上げると、本当に、一面真っ青だった。

 「レオくん見て。すっごくきれい・・・・」

 わたしは思わず感嘆の声を上げた。

 「うわ。すげー・・・・・・」

 レオくんも一瞬で目の前の景色に目をうばわれたようだ。
 感想を言葉に出来ずに、口をパクパク動かしている。

 上から、空の青、水平線、海の青。

 水平線が一直線にのびて、空と海にサンドイッチされている。

 わたしがぼーっと感激していると、となりで靴が擦れるような音がした。
 反射的にそちらを向くと、レオくんが一段高くなったコンクリートの上に立っている。

 「レオくん、何するつもり?」

 「ん?まあ、ちょっと見ててよ」

 レオくんはいたずらっぽくウインクをすると、大げさに腕を広げて深呼吸をした。
 わたしにはこれから彼が何をするつもりなのか、さっぱり見当がつかず、ただ黙って見守った。

 「では一曲!曲名は『ブルースカイライン』。作詞作曲はレオ★くんで!!」

 そう叫ぶなり、レオくんは青い青い観客を相手に唄いだした。
 ポップで小気味良い、明るいテンポ。

 いいなぁ。
 うらやましい。
 それが彼らのいつものサウンドだ。
 スギくんがいたら一層、曲が盛り上がるんだろうな。
 あ、ちょっと聴いてみたい。

 波風吹いて
 2人自転車 マフラーなびくよ
 どこまでも
 越えてけ ぼくらのブルースカイライン!

 わたしもレオくんに合わせて唄っていた。
 ときどき目配せをしながら。微妙に違う音が重なり合う。

 ふいに、スギくんの怒ったような顔が浮かんだ。
 『そういうのは僕がやる役なんだけど!』
 次にレオくんの嬉しそうな横顔が見えて、わたしは苦笑いをした。
 ゴメン、スギくん。今だけレオくん、かしてね。


 即興で作ったのだから、空と海を相手にしたライブは、ものの2分程度で終了した。

 「っと。さなえちゃんナイス!」

 レオくんからグッドサインと満面の笑顔を受け取った。

 「レオくんもさすがよね。つられて入っちゃたけど良かった?」

 ペタリとコンクリートの上に座り込む。
 どうやら唄って体温が上昇したようだ。
 冬の空気が頬にあたって気持ちいい。

 「モチ。いやー、まさか、さなえちゃんとスギみたいなことできるとは思わなかったよ」

 歌うように軽やかに。
 レオくんの声はいちいちわたしを急き立てる。

 スギくんかぁ・・・・・。
 レオくんは本当に、スギくんのこと好きだよね。よーく伝わる。
 普段は、『スギが僕のチョコ無断で食ったんだよ〜』
      『残しとくのが悪い。そんなにイヤなら名前くらい書けばいいだろ』
 なんて、小学生レベルのケンカをよくするのに。

 「わたしも。楽しかったね。またできたらいいのに」

 青い空、白い雲、青い海、白いガードレール、青い自転車・・・・

 「いいじゃん。また、合わせようよ。なんならスギと3人で歌う?
 リエちゃんも音痴じゃなかったらいいんだけどね〜」

 冗談まじりにレオくんは笑う。

 「音痴じゃなければねー」

 わたしも笑って。

 スギくんには勝てないなぁ。
 ずっと向こうの彼に嫉妬なんかしたりして。くしゃみでもしてるかな。

 空と海の間、水平線がまっすぐのびる。










アトガキ
再録その3。
ジャージ姿で書いた私には、やっぱりオシャレってなんなのかわかりませんでした。
さなえちゃんには青が似合うと思います。






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