あの子はいつだって全力だ。

どうして、そんなに頑張るの?どうして、世界を征服しようとするんだ?
どうして、自分にそんなことができると信じられる?

「・・・・・・・」

ぷくぷくと浮き立つ疑問は最初から、胸の奥に閉じ込めておくと決めた。
僕はただ何も喋らず、自分のスケッチブックと被写体である風景とを交互に眺めるばかり。

すぐ傍らでは、僕の絵が仕上がるのに待ちくたびれたあの子が、かすかに寝息を立てて眠りこけている。

すう、すう。くう、くう。すう。くう。

いくつかの音が途切れることなく後を継ぐ。あの子のクロミミウサギたちも、同じように夢の中にあるのだ。彼らはいつも一緒にいるから、きっと夢の中でも繋がっているのだろう。
微笑ましい気持ちとその中に自分はいないのだという小さな嫉妬。
チクリと胸は痛んだけれど、彼らの寝顔を見ると、気持ちは再びふわんと膨らむ。

カサッ

絵は完成したけれど、もう少しこのままで。
あの子はいつだって全力だから。せめてもう少しだけ、無邪気な顔で休んでいてほしい。
そして彼らが起きたなら、こんな僕の絵だけれど見て欲しい、と思う。
「何を描いていたの?」と聴かれたら、僕はこう答えるだろう。

「君たちの顔を描いていたんだ」

どんな顔をしてくれるだろうか。さまざまな反応が目に浮かぶ。
それでも、あの子のことだから、断定はできないのだ。本物は僕の想像とは全く違う声を上げるのかもしれない。

シャッ

丸まった鉛筆の芯を新しいページに乗せる。
気の抜けた表情。閉じられたまぶたがぴくりと動いた。
(起こしてしまった・・・?)
耳を澄ますと、すう、すう、くう、くうといくつかの寝息が空気を揺らしているのに気づいた。

僕は鉛筆を握りなおして、スケッチブックに向かった。
それでもやはり、たとえ敵役でもいいから彼らの夢に、ちらとでも自分が出て来てくれたなら嬉しい。そう感じながら。




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