「あなたが願えば、それはきっと形となって帰ってくるの」

いつだったかなぁ、彼女の言ったことから一部抜粋。
彼女は僕らとは少し違う。
いいや、かなり違うかも。
言動はいつもどこか夢見がちで現実性のかけらもないし、
彼女の髪の毛は風に揺れるとさらさらと音を立てるし。
しかもたまに浮いていることがあるような・・・うん、たぶんあれは浮いてた。
ぼくもさすがに、そこまでもうろくしていないと思うしさ。

たまに見かけて思うこと。
彼女の好きなものは、番傘と雨に濡れた道と柳の木の下、それに屋上なんかの高いところに、
星を数え続けること、だろう。
ズバリそうだろうと言ってやったら、

「うん、当たり。ただね、わたしは君のことも気に入ってるよ、案外」

なんて見向きもしないで返してきやがる。

「へぇ、そりゃどうも。」

「他には・・・夏の終わりに鳴くセミだって、あじさいの葉の上で丸くなるかたつむりだって、
結構いろいろあるよ、うん、いろいろ」

「・・・」

返事を放棄したのには理由がいくつかあるんだ。
たぶん返したところで彼女は聞いちゃいないだろうし、返す言葉もどうせろくでもなかったし、
こうやって覚えてはいるけれど、彼女の言葉なんて耳たぶにぶら下がっているだけで脳には届ききっていなかったのかも。

そう
なぜなら

大きな雲がようやっと席を退く気になったその時の空は、

あまりにも、あまりにも、

「・・・・・・」

それは息も、何もかもが止まるほどに、美しかったから。

空は人間なんかじゃ図りきれない次元にいるのだ。
思いを馳せるのも、星をつなげて星座をつくることも、小さいやつらの自己満足に過ぎないんだ。
もちろん、望遠鏡を必死にのぞく自分だって同じことで・・・

「ああ、小さいな。」

空を仰ぐと必ず感じる。
それは今も、初めて望遠鏡を覗いたその日も、両親と手をつないだあの月のない日だって同じで。

なんて小さいのだろう。

望遠鏡の穴を通して、ぽっかりと空洞ができてやいないか。
自分の眼窩に目玉がちゃんと二つはまっているか。
目をそっと遠ざける時に、そこにあるはずの二つの球を、手をあてて再確認するくせは今も変わらない。

「小さい、小さい・・・小さいから美しいよ。」

思えば彼女はずっと首をぐっとまげて空と話していた。
声は聞こえないし、口も動いちゃいなかったけど、まるで話しているみたいに
ころころと表情が変わる。

彼女は僕らとは違う。
僕らみたいな小さい人間なんかとは全く違う。
彼女はどこか「空」に似ていて。
僕も「ソラ」だけどいくら高い建物にのぼって手を伸ばしたって、届くはずがなかった。
僕は「空」にはなれない。

でもさ、でも、
さっきの言葉、思いのほかぐっときてしまった、不覚にも。

こんな小さな人間ですが、

「そうかね?」
「そうだよ。」

せいぜい、成長してみる努力はしましょうか。
「空」と友達になるくらいは可能かも、だし。






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