ホール、と呼ぶべきなのかここは。
とにかく、僕たちの学校にはそこそこ広い何も置かれていないスペースがあって、
その何も置いていないはずの場所に今は笹がでんと陣取っている。

金曜日。学校は、ある。
色とりどりの折り紙でつくられた七夕飾りに彩られた笹に、これまたいろんな色の短冊がくくりつけられている。
その笹はそこそこ広いスペースを埋めるほど、そこそこ大きくて、というよりむしろ茂っていて、
すぐそばの床には「願い事コーナー」とも言うべきか、長机が置いてある。
ボールペンと細長く切られた画用紙。
僕は手元の枝にくくりつけてある短冊の願い事をひょいと見た。
「インハイで予選とっぱできますように!」
「・・・」
突破くらい頑張れ。せめて辞書引け。

ピンクやら黄色やらがちゃらちゃらと飾られているのを見上げて、つくづく僕は感じる。
バカな高校だよなぁと。
普通は学校を挙げて七夕に何かしようなんて、思わないだろう。
小学校までは、まあ分かることなんだけど。それもたいがいが行事事の好きな女子が中心だ。

「おい、ソラ!オレたちも書こうぜ!短冊!」
「・・・はあ」
「ん、なんだよ!え、いやなの?あ、それともあれ。見られちゃマズイ願い事とか?
・・・っは!わかった、好きな女だろ!間違いねぇし!」
テンションが異様に高い水色髪の友人。
こういうのにまず真っ先に飛びつく人間だとはわかっていたが、普通の会話でこの叫ぶような声量じゃたまらない。

「ちがう」
とりあえず、ズビシといかにも軽い脳天にツッコミを入れて、仕方なくあたりさわりのない「願い事」を書いた。
となりの熱心な男の短冊を見ると、細かい字がずらっと並んでいた。
「平和」でさえ「へいわ」と書いている。あれを全部常用漢字に直したら、けっこうすっきりとまとまるだろう、なんて思った。
少なくとも、願いを見る側としてはそっちの方がよっぽど良心的に違いない。
「・・・」
このぶんじゃ二枚目突入だな。
僕は机に積んである画用紙の山の一番上からもう一枚取った。

「七夕・・・ね」
どこかのだれかさんはこの日が最も忙しいのだろう。
というか、この日しか彼女の存在意義はないのではないか?

「・・・ラ!ソラ!人が呼んでるんだからちゃんと返事しなさい!」
気づくと友人のサイバーが怒ったように眉間にしわを寄せていた。いや、ように、じゃなくて怒ってるのか。
「なに?」
「なにって!聞いてなかったのかよ!だーかーらー、お前も七夕ボウリングやるか?って話だろ!!
いいかー、さんかしゃ」
「あー、パス」
「話し途中だよ!!・・・って、え?参加しないの?」
「うん。今日はパス」
「そっかー・・・。ふーん、なら、まあ、オレは言及しないけどね」
サイバーはにたにた笑いながら僕から少し距離をとった。
あー、絶対勘違いしてるよ。
でもうだうだ言い返すのもめんどうだったから、そのままにしてサイバーとは別れた。

今日はお世辞にもいい天気とはいえない。雲は多いし、天の川は望めないだろう。
このごろ多い気がするのだが、彦星と織姫がちょうどうまく出会える年なんてない気がする。
それでも、僕は望遠鏡をかついだ。きっと、彼女はいないだろう。
それはわかってる。でもなんとなく、空を見たかった。

彼女は、さらさは、今頃世界中の短冊の願いを見て回っているのだろうか。
だとしたら、僕のも見てるのかもな。
「金持ちになれますように」と「お疲れ様」の二つを。






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