かごめは青い鳥を探している。
いつの間にか鳥籠から消えたそれは、冷たい籠の中に一片の羽根を残して飛び去った。
かごめは焦った。青い鳥は彼女の全てだったからだ。
青い鳥さえいれば何も寂しくなかった。青い鳥さえいればこの命までも投げ捨てていいと思った。
かごめの指先や肩の上で優雅に囀っていたそれは忽然と、何の予告もなしに籠から飛んでいった。
まるで裏切られたように真っ白になる。かごめは己の内で、あらゆるものががらがらと崩れ去る音を聴いた。

青い鳥がいなければ、だめなのだ。

かごめは青い鳥を探している。
失ったそれをもう一度取り戻すために。

かごめの前にたびたび姿を現す男がいた。
いや、実際は男なのか女なのか、犬なのか鳥なのか、はたまたただの影にすぎないのか何もわからない。
それは現れるたびに姿を変えた。
時にはアラビアンナイトのお姫様として、時には薄汚れたゴミ箱を漁るカラスとして、時には赤い靴を履いた孫を連れた老紳士として。
さまざまに姿を変えるそれが、なぜ同じ人物だといえるのか。それは必ず決まってあることが起こるからだ。

「ジズ。私はジズといいます。」

それは必ずかごめに名を告げた。そこで掻き消えてしまうこともあるし、しばらくかごめのそばに寄り添っていることもある。

そして今、かごめの前にいる「ジズ」は仮面をつけた人形師だった。
自作だと語った男女の人形を、箱の形をした小さな舞台の上で踊らせている。
どうしてもすんなりと脳に流れ込んでこない曲が頭上を漂い、かごめは黙って彼の操る人形を見つめる。
ぐにゃりと曲がるように、曲のテンポが緩やかで妖しげな印象に変わる。
かごめはその曲を恐れるように、あえて聴くまいとするように、ぽつりと言の葉を紡いだ。

「ねえ、人形師様。私の青い鳥を知らない?」

「・・・・・・・」

音楽がぷつりと止まる。ふっと湧いた沈黙に、かごめは吹きもしない風の音を聴いたような気がした。
ジズはかごめの深く黒い瞳を見据えた。底の底の奥の奥まで見切ってしまうような視線を、かごめから逸らそうとはしない。

「いいえ、だれにも知りません。青い鳥の行方など」

ジズはそれだけ言い捨てると、風の中へ、吸い込まれるように消えていた。
人形も小さな箱型の舞台も音楽を流すアコーディオンも。

それは、かごめとジズとの間で必ず執り行われる問答だった。
「青い鳥を知らない?」
そう尋ねれば、
「いいえ知りません。青い鳥の行方など」
そう答えて風の中へと消え去ってしまうのだ。

かごめは青い鳥を探している。
籠の中は今も、今も、一片の鮮やかな青い羽根しか残っていない。







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